初めて診察室で動物と飼い主さんと対峙するとき、新人獣医師の心の中は不安でいっぱいだろう。わたしはそうだった。
「どうされましたか?」
そう言葉に出しながら、(どうもしないでくれ!)と思っていた。
自分の知らない病気だったらどうしよう、死にそうな子だったらどうしよう、診断がつかなかったらどうしよう、誤診したらどうしよう!渦巻く恐怖‥。
それを1日に何回も繰り返すのが臨床の現場だ。
顔は引きつり、変な汗がたらたら出てくる。
知識も経験もない中、それでも現場に出ていくしかない。
時に失言をして飼い主さんの信用を失い、目の前で失敗をしてまた信用を失う。
身も心も傷つき、けれどそれを繰り返すことが経験で、そこを踏ん張ることで、誰もが少しずつ成長していく。
臨床1年目、そんな必死な毎日の中で、突然にやってくる「初めての指名」。
それはわたしの場合、30代の穏やかな女性だった。
ブティックにお勤めで、Tシャツのプレゼントまでいただいた。
情けないことに、当時のわたしは自分への自信のなさから、喜びよりもその責任の重さに耐えかねて、逃げ出したいくらいの気持ちになったと記憶している。
その後も様々な動物と飼い主さんとの出会いがあり、その度に責任という重圧を感じながら勉強した。
試験勉強とは全く違う、自分を頼ってくれる動物と飼い主さんのために何がベストなのか、そのための勉強だ。
そんな風に出会いは自分を成長させてくれる。
今の自分を乗り越えていく力になる。
わたしも若い時より人の気持ちが解るようになった今だからこそやっと、重圧をパワ-に変えられるようになった気がする。
指名してくれる患者さんはいわば“先生”だ。
そして動物にとって良い治療ができたとき、信頼され感謝されること、それがこの仕事の一番のやりがいとなるだろう。
臨床の現場にはそんな、あなたを成長させてくれる沢山の出会いが待っている。
ノア動物病院で働く獣医師に、獣医師として働き始めた当初の気持ちについて振り返ってもらいました。
楽しさや喜び、達成感がある職業の一方、プレッシャーや辛い経験もあるお仕事です。
まだ学生の皆さんには、これから様々な出来事が待っています。
経験を糧に、立派な獣医師を目指してください!