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【中編】林の「動物病院経営奮闘記」~国内開業から海外進出までの道のり~

ノア動物病院 院長の林です。

私は現在、日本国内で4つ海外ではベトナムで動物病院の運営をしております。
そんな私のこれまでの道のりを赤裸々に記した経営奮闘記をみなさんにお伝えしていきたいと思います。

今回は中編です。
では続きからどうぞ!

前編はこちら


開院まもなくから行ってきた活動の甲斐もあってかどうか、飼い主さんたちの意識も徐々に変わってきて、世の中にも予防の意識が根付いてきました。
そうなると、自然と犬や猫の寿命が長くなってきます

しかし、長生きすればするほど増えてくる病気もあります。たとえば、癌(腫瘍疾患)もそのひとつです。

動物たちには明らかに癌が増えているのですが、日本では対応が遅れていました。つまり、癌の症例についての知識が普及していないので、なかなか勉強する機会がなかったのです。
このころは、まだインターネットも整っていない時代でしたし、犬や猫の医学書や専門誌も少ない時代で、症例に対して圧倒的に知識が足りていない状況でした。

Dr.オグリビーの講義に衝撃を受け、単身アメリカへ

そんな中、あるときアメリカのコロラド州立大学から来日したDr.オグリビーの講義を受ける機会がありました。
非常に有意義な講義で、私にとってかなり衝撃的でした。

この先生は腫瘍内科の先生なのですが、聴くことすべてが新鮮でした。“アメリカではこんなふうに治療をするのか、自分にもっと知識をつけて実践したい!これは行くしかない!”と思ったのです。

当時は二つの病院をやっており、私以外に四人の獣医師がいたので、彼らに診察を任せアメリカへ行きました。
今考えると無謀ですね(笑)。

まずは、最低限の語学を学ぶため、一ヶ月間コロラドのデンバーで英語学校に通いました。
休みの日には、コロラド州立大学の大学病院に見学に行ったり、夜は近隣の動物病院にも実習や見学をさせてもらいに行きました。

アメリカ独自のシステマティックな仕組みを目の当たりに

はじめての時は、電話だと英語でうまく説明する自信がなかったので飛び込みで行きました。
その病院の先生はとてもいい先生で、快く受け入れてくれただけでなく、私が理解していない様子でいると、ゆっくりと話してくれたり、単語を教えてくれたり、とても丁寧に対応してくださり大変勉強になりました。

そこは中堅クラスの病院でしたが、設備自体は日本の方がきれいで新しい感じもしました。
アメリカに行く前、当時の日本はアメリカと比べ十年くらい治療レベルが遅れていると言われていたのですが、そこまで差が開いてはいないという実感でした。せいぜい五年くらいだったと思います。
でも今は、遜色がないくらい日本の獣医学は世界的レベルになっていると思います。

ただアメリカの動物病院で感銘を受けたのが、とてもシステマティックになっている点でした。今では日本にもこれに近いところが少しはあります。
獣医師がいて、動物看護師がいて、ケンネルボーイ、ケンネルガールと呼ばれる世話係のアルバイトがいて、さらにマネージャーもいました。

マネージャーがどんなことをするのかというと、経営面や院内のマネジメントを行います。
通常、このような人は複数の病院と契約しているそうです。

また、電子カルテで顧客管理をしているため、担当医以外が診るときでも、あまり問題は発生しませんでした。
もちろん獣医師が複数いる当院でも、このシステムは即刻取り入れました。

日本では見られない「専門医制」に触れる

アメリカでは当時から専門医制が確立されています。
巨大なペットグッズショップの中にある病院では、本当に簡単な治療と避妊去勢手術をするだけでした。

紹介してもらったある病院では、腫瘍、皮膚、心臓と救急疾患のみを診ていて、それぞれに専門医が数名いました。
もちろん、獣医師同士が連携をとっていて“この病気なら、○○病院に行ってください”と紹介されます。日本でも最近はこのように二次病院を紹介することが増えていますが、アメリカのような病院間の信頼関係のような結びつきは、まだ少ないのではと思っています。

語学留学した後一度帰国し、その翌年から本格的に半年間コロラド州立大学に留学しました。この大学はデンバーから二時間くらい離れたフォートコリンズという場所にあります。

日本の大学の獣医学部では 馬や牛などを学ぶことが中心だったのですが、そもそも欧米の大学では犬や猫が中心のカリキュラムが組まれています(今でも日本の獣医学部の傾向としては大きく変わりませんが、当時よりは犬猫のことも勉強するようです)。
まだ日本にはない内科や外科といった専門医の試験制度もあります。
日本も近い将来、そのようなシステムができるのではないかとは思っています。

日本で講演を行った Dr.オグリビーは、ここの大学の腫瘍内科の先生でした。
アメリカでは一口に腫瘍といっても、さらに内科と外科の分野に分かれていました。今の日本でも当たり前になっていますね。
大学病院では同じ「腫瘍」と言う研究室の中に内科と外科があって、それぞれの症例をどう治していくのかというのをディスカッションしたりします。学生は20以上あるこれらの専門分野をローテーションで回りながら勉強していきます。

私は内科、腫瘍内科、腫瘍外科と細胞診の勉強を半年の間でやらせてもらいました。
おそらく、今でも日本には細胞診専門の研究室はないと思います。

日本とアメリカでは診察方法が根本的に違う

日本の獣医学部は六年制ですが、アメリカでは八年間学びます。
四年間は普通の大学と同様に教養を学び、残りの四年間で専門を学びます。最後の二年間はほとんど臨床を勉強します。日本と比べて時間もかけます。学生は一日1−2症例だけ深く見て学びます。

それでわかったのが、「アメリカは日本と比べて技術が格段に進んでいるわけではない。けれども、ひとつひとつを確実にきちんとやっている」ということでした。

当時、腫瘍内科のDr.オグリビーや腫瘍外科の Dr.ウイスローは世界的権威だったので、アメリカ中から飛行機で患者が訪れていて、スケールがあまりに違うことに驚きました。

そもそも診察の仕方そのものが、日本とアメリカでは違っていました。
何か症状があったら、アメリカではまず考えつく限りの検査を全部して、そこから絞り込んでいき病名にたどり着きます。
最近はこのような診察方法がスタンダードだということが認知されてきていますが、当時の日本は最初からピンポイントで病名を考えていき、違っていたらもう一度やり直すという方法をとられている病院の方が圧倒的に多数でした。

この二つの違いは大きいのではないかと思います。
もちろん、すべての動物医療が検査をしてから診断する方法だと診断の正確さも上がります。
しかし、最大の欠点は、最初にすべての検査をするアメリカ式はかなり費用がかかるということです。ではなぜアメリカではそれが可能なのかといえば、やはり検査料金が安いのです。これは飼育されている動物が多いので必然的に検査も多く、ひとつひとつの単価も抑えられるからなのです。

私たちは実際に診察をする際、飼い主さんの経済負担についても考えるので、すべてにおいて検査をするわけにはいきません。だからこそ、たとえ理想通りにいくのは難しいとしても「本来はこうあるべき」ということはわかっていたほうがいいと思うのです。

医師として“誠実である”ということは、そういうことではないかと思っています。

とにかく半年間、腫瘍を中心にアメリカの最先端の動物医療を学んで多くの収穫がありました。
Dr. オグリビーと Dr.ウイスロー、彼らのもとで学べたことを心から感謝しています。

両氏のサイン入りの本を持っているのは、きっと世界中で私だけだと思い宝物にしています。


今回はここまで。
次回はいよいよ後編です!